本研究課題の研究目的は、一九七〇年代末の「改革・解放」政策開始以降の中国における社会治安問題の構造を明らかにすることである。 本年度の研究計画では、社会治安にもっとも影響のある刑事犯罪の動向に注目し、「改革・開放」政策の進展の中で社会治安問題としての刑事犯罪の様相の変化を跡付けることを、そしてそのためには犯罪の量的質的変化について時間軸だけでなく、地域的差異などの空間軸にも注目してその構造分析を行うことを主眼としている。 刑事犯罪は今日多種多様となり西側先進諸国のそれとほぼ似通った様相を呈する様になっている。金融犯罪や汚職、殺人や強盗などの凶悪犯罪、売春や麻薬犯罪の蔓延と犯罪者の組織化に伴う犯罪の大型化や国際化などこれらの犯罪が社会治安に及ぼす影響は計り知れない。まず、犯罪動向の時間軸については、七〇年代末から今日までについて三期に分け分析を試みた。これら各々の時期については、政治状況や経済発展の度合いによって例えば、犯罪件数や犯罪の種類に特徴が見られるが、「伝統型」、「アノミー型」、「近代型」といった犯罪の形態については全ての時期を通じて混在しているといえる。この犯罪形態の混在は、地域についての空間軸に注目すると如実に現れる。一部の農村では、「宗族」間の衝突である「械闘」が発生したり、当局と結託した犯罪者によって無法状態が出現することもある。また、沿岸の経済先進地帯では犯罪の対象を「物象化」した冷酷な殺人事件が起こっている。刑事犯罪に見られるこのような多様性は、今日の中国における刑事犯罪の特徴でもあるといえる。 また、最近では犯罪組織の跳梁が顕著であり、当局も「黒社会」の再来として警戒しているが、権力当局の腐敗とあいまって一定の存在基盤をすでに獲得したと思わせる。
|