研究概要 |
1955年(昭和30年)表以来、5年毎に作成されている我が国の産業連関表(全国基本表)は、レオンティエフによって開発された投入-産出分析理論を応用した開放型静学モデルに準拠して作成される加工統計表(processed statistical table)である。通常、この加工統計表に基づいて分析対象期間における経済構造とりわけ生産構造の計量的分析が行われる。特に開放型静学モデルに従う産業連関表の場合,生産構造は詳細に分割された各生産部門における原材料投入ベクトルの場合である投入マトリックスによって記述される。このマトリックスの構成要素である投入係数は,分析理論の仮説すなわち要素制約型生産関数のパラメーターの実際値であるとみなされている。本研究では,産業連関表の製造業部門に該当する工業統計調査のミクロデータを用いて、産業連関分析モデルにおける理論仮説の実証分析を試みた。特に平成10年度は、工業統計調査ミクロデータから産業部門別事業所ベースのパネルデータを作成した上で、製造品目(6桁分類商品)を統御した事業所群を(1)存続、(2)参入、(3)退出という3つの動態属性によって区分し、動態属性別に労働投入係数の推定を試みた。その結果、最大産出品目(商品)あるいは産出品目構成が類似する事業所群であっても、動態属性が異なるグループ間では投入係数に該当するパラメータに関して、統計的に有意な差があることが判明した。例えば,民生用電気機械機具製造業に属する事業所群のうち、最大産出品目が同一で上位3品目の産出構成が類似する事業所群を対象にした1990年のクロスセクションデータに基づく計測結果では、計測年次以降に退出した(3)の動態属性をもつ事業所群の投入係数が最も小さい値を示し、(1)が最も大きな値を示している。他の4桁分類産業に関しても、投入係数値の大きさの順序は異なるが、動態属性グループ間で有意な差がみられる。このような分析結果は、商品ベースの投入係数が単一ではなく、商品に固有の分布を従うことを示唆している。これを産業連関表の精度向上という観点からみれば、「投入実績調査」に際して,商品固有の投入係数分布を考慮した標本抽出が可能であることを示唆している。
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