弦理論におけるソリトンは、弦の非摂動的ダイナミクスを理解する上で重要な役割を演じて来ているが、それは、結合定数(string coupling constant)gが小さい領域で、e^<-const/g>の形の非摂動効果を与えると考えられている。このことは、閉弦に関する場の理論を共変で単純な形を持つ作用(汎)函数を用いて構成論的に定義することが難しい、ということを意味している。 この問題を回避する可能性の一つとして、「弦よりも基本的な力学変数が存在し、閉弦の基本励起は複数変数によって記述される」ということが考えられる。その際、ソリトンも、その基本的な力学変数により自然に記述されることが望ましい。矢彦沢茂明氏(京大・理学部)と私は、行列模型のdouble scaling limitとして非摂動的に定義の出来ている非臨界弦において検討を行い、確かにこの可能性が実現していること、とくに、時空のフェルミオンがその基本的な力学変数に対応し、弦の場とソリトン場の両方が、(フェルミオン数が0の)双一次形式で表されることを示した。 我々はさらに、多重ソリトン解の重ね合わせについても議論を行い、その結果、(i)分配函数にSchwinger-Dyson方程式(W_<1+∞>代数の真空条件)を課すだけでは多重ソリトン解の足し上げの係数は任意であること、(ii)string方程式から得られる結果と一致させるためには分配函数がKPヒエラルヒ-のr函数であることが必要であり、その時には有限個の不定定数のみが残ること、を示した。 以上の結果は、弦の基本励起に関するSchwinger-Dyson方程式だけでは系が非摂動的に決められていないことを示唆し、閉弦が基本的力学変数ではないという予想の証拠の一つと考えられる。
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