井上淳氏は次のことを提唱している:ベクトル値関数を未知関数とする微分方程式、すなわち、微分方程式系の解析を、無限自由度の空間において行えば取り扱いが自由となり、実質的にスカラー値関数の取り扱いと同じになる。このアディアに従い、ベクトル値関数を未知関数とする2階偏方程式の代表例の一つである地震波の伝播を記述する、弾性方程式の研究を目指した。 実際は、井上氏の提唱とは違い、思うような成果が上がらなかったことを正直に告白しなければならない。形式的解はその方針で存在が保証されるとしても、地震波の様な、解の詳細な挙動を求めなければならない問題に関しては、従来行われていた方法の方が、強力であるように思われた。地震波の、漸近解による解析はやはり扱いやすく、波の性質をよく説明できる。このやり方に関しては、波の現象をあつかった研究代表者の著書「岩波講座 現代数学の基礎 偏微分方程式2」の中で、丁寧に考察し、地震波の性質を明確に示した。
|