コンパクトリーマン面上の半安定放物的ベクトル束のモヂュラス多様体は、放物的構造の重みを変えるとそれに伴い変形していく。ここでフリップと呼ばれる双有理変換が生ずる。半安定放物的ヒッグス束についてはこのフリップによってモヂュラス多様体の位相的不変量が変化しないことがわかった。実際には微分同相となる。このことを利用して特殊な重みに対してモヂュラス多様体のベッチ数を計算することができた。半安定ベクトル束のモヂュラス多様体の有理性の問題はコンパクトリーマン面上においてすら、まだ完全には解かれていない。半安定放物的ベクトル束のモヂュラス多様体に対して有理性の問題を扱った。放物的線形束のテンソル積によっていろいろな放物的構造に対するモヂュラス多様体が同相であることがわかるが、それによって多くの場合についてモヂュラス多様体が有理的であることがHans U.Boden氏との共同研究でわかった。また、代数的にスタックの手法を用いてのモヂュラス多様体の構成を試みた。これによって従来扱えなかった半安定でない対象について調べることが可能となった。このことは半安定放物的ヒッグス束のモヂュラス多様体がフリップによって位相的に変化しないことを理解するには不可欠な道具となる。半安定でないものがフリップによって安定なものに変化するためである。代数的スタックとしてのモヂュラス多様体はこのため良い土台を与え、今後この方向で研究して行く。
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