研究概要 |
2次元可解格子模型あるいは可積分場の理論の模型の相関関数や形状因子は,qKZ方程式などある種のq差分方程式系を満たすことが最近の研究によりあきらかにされてきた。ところでそこで現れるqKZ方程式はレベルと呼ばれる方程式のパラメータの値が零又は単純リー環の双対コクセタ-数の-2倍という特別なものになっている。 F.SmirnovはSU(2)不変Thirring模型と呼ばれる可積分場の理論の模型の形状因子の積分表示を導いている。これはレベル零sl_2有理qKZ方程式の解を与える。Smirnovは形状因子の性質を調べるためにqが1の極限を研究しレベル零sl_2KZ方程式の解の積分表示を得、さらにその積分が超楕円曲線のテ-タ零値を用いて書き換えられる事を発見した。テ-タ零値による表示はソリトン方程式の準周期解など有限次元の古典的完全積分可能系レベル零KZ方程式の解あるいは場の理論の形状因子の構造とが関係している事を示唆する。実際Smirnovはレベル零の積分表示が頂点作用素の最高ウエイトについての真空期待値として表示出来ることを仮定して関係を議論している。ところで我々はsl_2KZ方程式の場合に表現論から導かれる解の積分表示の中身である微分形式がレベル零の時には完全形式になっていることを見つけた。これはSmirnov型の積分表示と表現論とが普通の意味では結びついていないことを意味する。そこで完全積分可能系との関係や、Smirnov型の積分表示を表現論の立場で理解する事を目的としてSmirnovの結果をsl_Nに拡張してみた。この時Z_N曲線と呼ばれる代数曲線に関する幾つかの性質を調べることが必要になった。調べた結果、以前物理学者Bershadsky-Radulによって経路積分の手法を用いて(従って数学的には厳密でない)得られていたZ_N曲線に対するThomaeの公式を初等的な手法で厳密に証明する事が出来た。Thomaeの公式とそれを証明するときに明らかになった事実を用いてレベル零sl_NKZ方程式の解のテ-タ零値表示を与えた。それはsl_2の場合の自然な拡張になっている。 表現論による理解と言うことについては次のようなことがsl_2の場合にわかった。表現論から導かれる解の積分表示をある種の境界のある積分領域で積分するとSmirnovの積分公式が得られるのである。これはWakimoto加群の理論でスクリーニング作用素をうまく定義すればSmirnovの積分は表現論の立場で理解出来ることを示唆している。sl_Nのときは状況はもう少し複雑である。この辺の話題は現在研究中でありこれからの課題の一つである。
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