本研究では、最近注目を浴びている、アドベクション優勢円盤モデル(『降落円盤』)と輻射場の抵抗によってガスが落下するモデル(『β円盤』)を念頭に置き、降着円盤の回転則がケプラー回転からずれた場合や、降着円盤の上下に高温のコロナが存在する場合、さらに降着円盤から風が吹いている場合などについて、モデルの構築や、輝線スペクトルのモデル計算を行った。 当初の目標にしたがって、以下のような研究が行われた。 (1)“降落円盤(advection-dominated disk)"のモデルとしてNarayan and Yi(1994)を、また、“β円盤(radiation-dragged disk)"のモデルとしてFukue and Umemura(1995)を使い、これらのダイナミカルなモデルの速度場や温度・密度分布を用いて、非相対論的な範囲でさまざまなパラメータの組み合わせに対して、輝線プロファイルを計算した。おおむねダブルピークのプロファイルになるが、ケプラー円盤の場合より幅は狭くなることがわかった。 (2)降着円盤の輻射場と中心星の輻射場にさらされた降着円盤コロナのモデルを構築し、また輝線プロファイルをモデル計算した。さらにX線衛星ASCAで観測されたMCG-6-30-15の非対称なプロファイルと比較し、ベストフィッティングを求めた。 (3)降着円盤の輻射場によって駆動される風について、輻射場の抵抗の影響を考慮しながら、相対論的効果に関してv/cの1次のオーダーまで自己無矛盾に調べ、風の吹き出す条件を求めた。降着円盤の光度が中心天体のエディントン光度の80%ぐらい以上だと、降着円盤のもっとも明るい内縁付近から風が吹き出すことがわかった。
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