本研究は、光誘起電子移動と一重項-一重項および三重項-三重項エネルギー移動に対するラテックス表面の反応場としての特性を体系化し、それらの光反応を制御することを目的とした。本年度は、ポリスチレンラテックスを用い、(1)インドール化合物からピレン誘導体への光誘起電子移動および(2)三重項-三重項エネルギー移動の予備的実験としての室温リン光の測定について検討し、以下の成果を得た。 光誘起電子移動 電子受容体として1-ピレンメタノール(PyM)、電子供与体としてトリプトファンとトリプタミンを用いた。実験の結果、トリプトファンの場合は水溶液中とラテックス分散液中で電子移動効率がほとんど変わらなかった。これは、PyMの大部分がラテックス表面に吸着されるのに対し、トリプトファンがほとんど吸着されないためである。一方、トリプタミンの場合、ラテックス分散液中では水溶液中よりも数百倍効率よく電子移動が起こった。これは、PyMとトリプタミンがともにラテックス表面に吸着・濃縮されたためである。現在、ラテックスによる逆電子移動の抑制について、拡散反射レーザーフラッシュフォトリシスによって検討を行っている。 三重項-三重項エネルギー移動 ラテックス表面における6-ブロモ-2-ナフトール(BNL)の室温リン光の発現について検討した。実験の結果、水溶液中では室温リン光が観測されないのに対し、ラテックス分散液中ではきわめて強い室温リン光が現れることが分かった。これはBNLがラテックス表面に吸着され、固定化されることにより分子内失活が抑制されたためと考えられる。この成果は、ラテックス表面における室温リン光測定の最初の例として注目される。今後は、ベンゾフェノン誘導体からBNLへの三重項-三重項エネルギー移動を研究する予定である。
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