研究課題/領域番号 |
08218260
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研究機関 | 岡崎国立共同研究機構 |
研究代表者 |
吉原 經太郎 岡崎国立共同研究機構, 分子科学研究所, 教授 (40087507)
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研究分担者 |
内藤 幸人 岡崎国立共同研究機構, 分子科学研究所, 助手 (90280578)
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キーワード | ヘキサトリエン / 異性化反応 / フェムト秒過渡吸収分光法 / 励起状態ダイナミクス / 内部転換 / 溶媒効果 |
研究概要 |
直鎖ポリエンの励起状態には近接した光学許容のS_2状態と光学禁制のS_1状態があり、これら励起状態のダイナミクスについてこれまで多くの研究がなされてきた。我々は凝縮系における溶媒の役割という点に着目し、紫外フェムト秒過渡吸収法により溶液中でのヘキサトリエンの励起状態ダイナミクスに関する研究を行った。 トランス体、シス体の過渡吸収信号はともにその立ち上がりは装置応答関数に相当し、また速い減衰が観測された。この減衰成分は短波長になるにつれ徐々に遅くなるが、シス体の方がその変化の割合は小さかった。最初に光励起されたS_2状態はS_1状態に100fs以内に内部転換するので、減衰部分はS_1での振動エネルギー再分配とS_0への内部転換のダイナミクスの両者を反映し、S_1状態の寿命が500fs以下であると見積もることができた。トランス体、シス体の波長依存性の違いは二つのダイナミクスが競合する度合いの違いによると考えられる。さらに、光励起後の基底状態の回復過程を測定した。268nm光を励起光とした場合、トランス体の回復過程は溶媒に依らず三つの時定数で特徴づけられ、それぞれ1ps、15-20ps、150-300psであった。3番目の成分のみシクロヘキサン中の方がアセトニトリル中より2倍速かった。シス体の場合、顕著な溶媒依存性がみられ、シクロヘキサン中では10ps程度の時定数で比較的速く吸収が回復したのに対し、アセトニトリル中では10psと180ps程度の二つの時定数で回復している。また、トランス体、シス体とも基底状態の回復過程の時間変化には顕著な波長依存性が見られた。これらのことは、S_1状態からの内部転換後、基底状態の高振動励起状態から振動緩和して熱的にもとの安定な状態に戻るという単純な描像ではなく、その途中でいくつかの過渡的な異性体が生成され、これがもとの状態に戻る過程も信号に含まれることが原因と考えられる。
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