細胞内情報伝達における鍵酵素であるプロテインキナーゼC(PKC)は、強力な発癌プロモーター・ホルボールエステルの主要なターゲットとして注目されている。最近、リン脂質非存在下におけるPKC調節領域の一部と水溶性ホルボールエステルとの複合体の結晶構造が報告されたが、リン脂質存在下における複合体の三次元構造は依然として不明な点が多い。本研究はこの点を明らかにするため、新規光反応性ホルボールエステルを合成し、PKCモデルペプチドに対する光アフィニティーラベリングを行った。 昨年度のラットPKCγ調節領域モデルペプチド(アミノ酸残基101-151:γ-CRD2)に対する光アフィニティーラベリングにより、ホルボール骨格の12位あるいは13位にジアゾアセチル基を有するプローブがγ-CRD2を特異的に光標識できることが判明した。しかしながら、ラベル化率が低く、標識アミノ酸残基の同定は困難であった。本年度はまず、ジアゾアセチル基よりもラベル効率の高いジアジリンをホルボール骨格の12位あるいは13位に導入したプローブを合成した。同時にホルボールエステルに対して親和性の高いPKCモデルペプチドのスクリーニングも行った。その結果、マウスPKCη調節領域モデルペプチド(アミノ酸残基246-296:η-CRD2)が亜鉛でフォールディングすることにより、γ-CRD2よりも2オーダー高く、かつネイティブのPKCηに匹敵するホルボールエステル結合能(K_d=0.91nM)を示すことを見いだした。そこで、ジアジリン誘導体をトリチウム標識し、η-CRD2に対する光アフィニティーラベリングを行った。しかしながら、η-CRD2に対する標識率はγ-CRD2とほとんど変わらなかった。以上の結果より、標識アミノ酸残基を同定するためにはさらに新しいタイプの光反応性プローブの開発が不可欠であることが判明した。
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