エンジイン系人工DNA制限酵素の分子設計と機能発現制御技術の開発研究の一環として、既に、環内に硫黄原子を有する10員環エンジインスルフィドを合成し、これが、温和な弱塩基性条件下、高いDNA切断活性を有し、かつプリン塩基選択的にDNAを切断することを明らかにした。今年度は、硫黄の代わりに窒素および酸素原子を有する新規ヘテロエンジイン化合物を合成し、それらのDNA切断活性を比較、検討した。まず、10員環エンジイン骨格内に窒素原子を有し、DNA塩基配列認識部位の導入のための水酸基を有するアザエンジイン1aおよび10員環エンジイン骨格内に酸素原子を有し、DNA塩基配列認識部位の導入のための水酸基を有するオキサエンジイン2aを、それぞれ効果的な分子間および分子内環化反応を鍵反応として合成した。さらに、1aおよび2aのアリル位の水酸基に、DNAとの親和力を高めるために、ベンゾイル基、2-キノキザロイル基、1-ナフトイル基および2-ヒドロキシ-1-ナフトイル基の各種芳香環をエステル化により、それぞれ導入したアシル誘導体1b〜eおよび2b〜eを合成した。次に、これらのDNA切断活性を評価した結果、オキサエンジイン2b〜eのDNA切断活性は、相当するエンジインスルフィド誘導体より劣るのに対し、アザエンジイン1b〜eは、弱塩基性条件下、同程度のDNA切断活性を示すことを明らかにした。また、1b〜eは、酸性条件下において、より高いDNA切断活性を有すること、また、濃度依存的にDNAの二本鎖切断が起こることが明らかになり、エンジインスルフィドには見られなかった新たなDNA切断機能を有していることを見い出した。さらに、そのDNA切断活性力は、アリル位の水酸基に導入した芳香族化合物の種類に依存し、1-ナフトイル基を有するオキサエンジイン1dが、最も高いDNA切断活性を示すことが明らかになった。
|