研究概要 |
本研究では、立方晶CeB_6のCe-4f電子による山を、165Kで測定したデータに基づく変形密度図上に見いだすとともに、結晶場理論を用いて、これを定量的に解析した。これは、筆者の知る限りでは、世界で初めての例である。X線回折法では、従来、4f電子密度の測定は困難であると考えられていたが、本研究で多重反射を避ける方法等の測定法の改良を行うとともに、4f電子密度解析を行える解析プログラムを開発する等により上記の研究が可能になった。また、4f-電子は、原子核の近傍に位置するため、非調和熱振動と4f電子密度分布が分離できるか確認する必要があるが、X線回折法で測定される温度因子の温度変化より、非調和熱振動の影響を調べた。100K,165K,230K,298KでCeB_6の精密構造解析を行った。X線回折法で求められる温度因子から計算されるCe原子の平均二乘振幅は、温度と共に線形に変化するので、Ce原子は非調和熱振動をしていない。したがって、測定した4f電子密度は非調和振動によらないことが明確になった。 4f電子密度分布がX線回折法で実測できることは、一連の実験で定量的に確かめられた。しかし今後、この研究を更に発展させるためには、スピン-軌道相互作用を第一義的に考慮した原子軌道モデルを導入する必要がある。また、本研究で取り扱った高対称場中のf-電子だけでなく、一般の希土類錯体中のf-電子密度をX線回折法で測定できるようにしたい。そこで、本年度は更に両円測角器を改良し、0.1〜0.2mmの大きさの自然面に囲まれた結晶の面間角度と大きさを測定出来るようにした。この装置を使用して、一般的な希土類錯体Na_9[EuW_<10>O_<36>]・32H_2Oの吸収補正を行う。最近の研究で、放射光を使用すれば、希土類結晶の精密測定も、現在の実験室における有機結晶の精密測定と同程度の精度で、測定出来る可能性のあることが明確になった。最先端の装置の利用も含めて、今後も、総合的にX線回折法による希土類錯体の研究を推進する。
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