研究概要 |
本研究課題では、希土類錯体の電子状態や結合様式における4f電子の果たす役割を理論的に解明する事を目的とし、ab initio分子軌道法による理論計算を用いて諸問題に取り組んでいる。一連のランタニド三塩化物LnCl_3に対する理論計算により、f軌道への電子のつまり方に関して、これまでのs,p,d軌道のみを含む分子系の常識とは反した興味深い現象が見いだしてきた。7つのf軌道には電子はフント則に従って1つずつ詰まっていくが、7つのf軌道のすべてに電子が一つずつ詰まった後、8つ目の電子からは軌道エネルギーの高いf軌道から順に詰まっていく。本年度は錯体中の4f軌道の擬縮退の状態を解明し、それに基づいて上記の現象の理論的な解明に成功した。さらに、計算に際して配位子の基底関数におけるd分極関数の効果を確認し、その必要性を示唆した。加えて現在、ランタニド二核錯体Ln_2F_6の計算を行い、2組のf軌道の相互作用によるf軌道の分裂の様子や、それによってf軌道が結合へ参加する可能性、さらにf軌道が外部の分子に及ぼす化学的な影響の理論的解明を試みている。一方で、近年、O_h対称の構造をもつ6フッ化アニオンが安定に存在することが予測されていることに着目し、希土類多価負イオンLnF_6^<n->(n=2,3)の存在を理論的に検討している。まず、すべての希土類元素に対してLnF_6^<n->はOh対称の安定な分子構造を持ち、電子構造はLn=Gdではn=3、それ以外ではn=2で最安定であることを確認した。次いで、解離反応LnF_6^<n->→LnF_5^<(n-1)>+F^-の反応障壁、反応熱を求めて、LnF_6^<n->の安定性を考察した。一般には多価負イオンは解離に際してクーロンエネルギーの放出による発熱をともなう準安定分子であることが知られており、n=3の場合にはその反応障壁は10kcal/mol程度である。一方n=2の場合には、原系が生成系より安定に存在することを明らかにした。
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