イオン伝導体の薄膜化は、化学センサーやリチウム二次電池などのイオン伝導体を用いる素子のコンパクト化や高性能化にとって極めて重要である。我々は、このゾル・ゲル法で薄膜化が可能なリチウムイオン伝導体としてLiRSiO_4(R;希土類元素)に注目してそのイオン伝導性を調査してきた。本研究では、希土類の原料としてアセチルアセトナト希土類錯体を用いたゾルゲル法による薄膜化を検討した。薄膜化の過程は、上記の錯体の他にリチウムイソプロポキシド及びシリコンエトキシドをメタノール中で混合し、コーティング溶液を調製した。この溶液をディップコーティング及びスピンコーティング法を用いて石英ガラス或いはシリコンウェハ-上に塗布し、所定の温度で加熱した。この操作を数回繰り返すことによりイオン伝導性薄膜を合成した。種々の温度下で合成した薄膜の結晶性を調査したところ、400℃付近で既にバルク相であるアパタイト型のLi_xLa_<10-x>Si_6O_<24>・O_<3-x>(1≦x≦3)の生成することがわかった。この系の固相間反応による合成には1000℃以上の温度を必要とすること、さらに酢酸塩を用いたLiYSiO_4系における同様なゾル・ゲル法での化合物の生成には700℃以上の温度が必要であったことと比べると格段に低温合成が可能なことを示している。薄膜の伝導度は、明らかに焼結体のそれよりも約一桁向上した。薄膜のコールコールプロットはいずれの温度においても単一の半円が得られたので、バルク伝導度と粒界伝導度を分離することができなかったが、このことは粒界部分が有効に連結され良好な伝導経路が形成されたためと考えられる。すなわち、本研究で用いた希土類錯体を用いたゾル・ゲル法による薄膜化では孤立した粒界が極端に減少し、大部分の粒界が有効な伝導パスとして機能しているものと考えられる。このことはEPMAによる薄膜中の構成元素の分布状況からも裏付けられた。
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