本研究の目的は固体における電子相関が特に強い強相関電子系物質の中でも低温においてエネルギーギャップを発現するいわゆる「近藤半導体」と呼ばれる物質についてその詳細な電子構造を知ることである。特にこの範疇の物質の特異な物性はフェルミ準位近傍に存在する4f電子準位の不安定性に関連していると見られることから、遠赤外光という極低エネルギー励起による高いエネルギー分解能を有する遠赤外分光法によってその光スペクトルの詳細な温度変化を観測し、ギャップ形成のメカニズムについて知ろうというものである。 実験は、高輝度遠赤外光源として知られる分子科学研究所の放射光施設UVSORの赤外ビームラインBL6A1で遠赤外反射実験を行った。試料は単結晶CeRhSbである。この物質の特長はCeNiSnと同じ結晶構造を持つがそれよりも異方性が弱く、且つヘリウム温度でギャップが開くいわゆる「近藤絶縁体」ではないかと見られている点である。電気抵抗の測定でもそれが伺える。この物質は最近の結晶成長技術の進歩でようやく純良単結晶が得られるようになった。測定によれば室温-窒素温度まではほぼ金属的な反射率を示すがヘリウム温度まで冷やすと約3meV(25cm^<-1>)以下のエネルギー領域で5%程度の明瞭な反射率の低下が観測された。これからギャップが低温で開き、その大きさが3meV程度であることが分かった。
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