1.色素材料の広範な探索 鋭い発光スペクトルを有するヨウロピウム錯体は微小共振器に組み込むには最適の発光材料であるが、実際に作製した積層型デバイスの発光効率と駆動安定性は十分ではなかった。そこで、本年も引き続き遷移金属キレート錯体の探索を続けた。ヨウロピウム錯体体、テリビウム錯体系何れにおいても、駆動安定性が保証される材料は見いだせなかった。亜鉛キレート錯体の発光材料としての可能性を調べたところ、発光効率、駆動安定性ともに十分であったが、発光スペクトルが広い点に有用性の限界がある。 2.色素累積薄膜系における発光中心の遷移双極子の配向制御 真空蒸着色素系並びにラングミュアーブロゼット膜系で遷移双極子の配向を制御した発光素子を作製することができた。真空蒸着色素薄膜系では、発光分子の極性を制御できれば、有機/無機の界面近傍で遷移双極子を配向させることが出来る可能性を見いだした。ラングミュアーブロゼット法を用いて形成した膜面に垂直に配向した遷移双極子からの発光が確かに電気刺激モードでも実現できることを、発光強度の空間パターンの測定から確認した。 3.薄膜試料からの発光の観測の精度向上 光励起の場合の薄膜からの発光空間パターンを精度良く計測する測定系を整備した。特に薄膜が吸収する励起光の量を一定に保ちながら、発光強度の角度依存性を測定できるように装置を工夫した。光励起の場合の発光スペクトルを空間角度分布の関数として計測し、電気励起発光の場合と直接比較できた。このような発光空間分布の精密測定手法により、遷移双極子が薄膜の膜面に垂直に配向している場合、発光の空間強度分布は、通常の遷移双極子が空間的にランダム配向の場合と比べて大きく変化することを実証できた。極微弱発光の場合でも精密な測定を可能にすること、室温測定だけでなく低温でも高い精度で測定できるように装置を改良することが残された課題である。
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