本研究では、高精度の測定法によりシリコン融液の音速を測定し、NFE(nearly free electron)モデルに基づく構造因子の計算結果との比較を行うことによりシリコン融液の構造を評価した。これらの実験及び計算から得られた結果は以下のように要約される。 (1)高温融体の音速測定に耐え得る装置及び高精度音速測定技術の開発を行い、位相比較法によるシリコン融液音速測定に初めて成功した。 (2)シリコン融液の音速は温度の上昇に対して非直線的に増加することが明らかとなった。また、測定した音速から算出した等温圧縮率は、融点から1550℃までの間で温度の上昇と共に減少するという異常を示した。 (3)錫及びゲルマニウム融液の音速のデータの比較から、錫、ゲルマニウム、シリコンの順に原子量が小さくなるにしたがって等温圧縮率に見られる異常が大きくなることが明らかとなった。錫融液の弾性的振る舞いは、単純液体金属の振る舞いと一致する。 (4)NFEモデルに基づく計算により求められた融点におけるS(0)の値は、ゲルマニウム融液では音速から求められたものとのほぼ一致するのに対し、シリコン融液では音速から求めたS(0)の方が25%程度大きくなった。このことは、NFEモデルでは表現できない何らかの融点近傍における軟化の機構がシリコン融液で実現している可能性を示す。 (4)NFEモデルに基づく計算により求められたシリコン融液の等温圧縮率は、温度の増加に対して直線的に増加し、実験から得られたシリコン融液の異常は再現されなかった。 (5)以上により、シリコン融液は融点近傍で軟化を示すと考えられる。この軟化は、熱ゆらぎとは異なる原因の新たな密度ゆらぎが融点近傍で起こることによるものと考えられる。
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