研究概要 |
本年度は,イタリアの白亜紀チュノマニアン/チュロニアン境界層で採取した有機物に富んだ黒色頁岩(全有機態炭素で16%)およびその周辺の岩石をキャピラリーガスクロマトグラフ(GC)、GC/質量分析計にて分析し、アルカン、アルコール、、カルボン酸の分布を明らかにした。その結果、この白亜紀黒色頁岩中には、微生物起源のホパノールとホパン酸が極めて高い濃度で存在することが明らかとなった。一方、堆積物中に一般的に存在するノルマルアルコールは微量でしか存在しないことがわかった。これらの結果は、シアノバクテリアまたはメタン酸化細菌のような原核細胞を持つ微生物がホパノール・ホパン酸の生成に大きく寄与したことを示唆した。また、この黒色頁岩の窒素安定同位体比を測定したところ,-2から0パミールという低い値を示た。この低い窒素同位体比は、周辺の岩石には一般に認められず、黒色頁岩に特有なものであった。この結果は、黒色頁岩中の有機物は大気中の窒素を直接に固定するような微生物によって生産されたものであることを強く示唆した。バイオマーカーと窒素同位体の結果から、黒色頁岩の形成にはシアノバクテリアが大きく寄与していることが結論づけられた。 現在、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)分析によって得られたアルミニウムなど金属元素の測定値より堆積速度の推定を行っており、これに基づいて有機物や各化合物の沈堆速度(フラックス)を計算しつつある。その予備的結果によれば、黒色頁岩形成の時代における炭素のフラックスは他の時代に比べ数十倍になったと見積もれら、この時代には生物ポンプが強力に駆動した可能性が指摘される。現在、本年度得られた結果をもとにして、黒色頁岩が形成された時代の、大気・海洋・堆積物リザーバー間でのグローバルな炭素・窒素循環モデルを検討中である。
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