研究概要 |
本研究では、正準変換型数値解法という新しい手法を用いて、重点領域研究計画「全地球史解読」に於いて致命的な位置を占める謂わゆる“IK-diagram"(熊澤・伊藤,1993)の正当性と精密性を増すことを目的としたものである。まずはこの目的を達成するための道具作り、すなわち数値積分法の開発を行い、いくつかの高速アルゴリズムを考案し、計算機上に実装する作業を行った。研究題目にある正準変換型数値解法の他、ベクトル計算機や並列機の上で最適な動作をする算法をいくつか開発し、実装した。次に、これらの数値解法を用いて実際の惑星運動の数値積分に着手した。従来までに外惑星系に関する計算結果は既にかなり得られて来たので、今年度は地球を含めた内惑星系の数値計算を進めた。その結果は研究発表リスト内の論文などに納められている。ひとことで言えば、十億年程度の時間スケールでは内惑星系は非常に安定であり、カオスと言われる惑星の運動が現実的には極めて安定したものであるということが示された。この結果、少なくとも計算を実行した約十億年前までに於いてはIK-diagramは信憑性が高く、『全地球史解読』に於ける相対年代時計として利用できることが確認された。 昨今、太陽系の外にも多くの惑星系が発見されつつあり、その数は今後ますます増えて行くものと予想される。これからの研究に於いては、これらの惑星系をも視野に入れた数値計算を行い、我々の太陽系の構造がどこまで安定なのか、また、これだけ安定な惑星系は普遍的に存在するのかまたはそうではないのか、などの検証を行ってゆく予定である。同時に、更に高速で高精度の新しい数値解法の開発も継続して行い、惑星運動が地球環境変動に与えて来た長い時間スケールでの影響について詳細なる検証を加える予定である。
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