室温で電解質溶液に匹敵するイオン伝導度を有するガラスが沃化銀-酸素酸銀系で見出され、高イオン伝導性はもちろんのこと、その透明性、等方均質性、薄膜化が容易であることからニューガラスと呼ばれる機能性材料の一つとして注目を集めている。今日まで、主にその電気的特性に関する研究が国内外で活発に展開されてきたが、イオン伝導機構を議論する上で基礎となるガラス構造に関しては、多元系非晶質のため従来のX線あるいは粒子線回折法による定量的解析は事実上不可能であり、赤外吸収スペクトル等の観測に基いて提唱されている構造モデルの検証は非常に難しく未解決の部分が多い。この様な研究上の支障を克服するため、目的元素の環境構造を距離の関数として導出できるX線異常散乱(AXS)法を用いて(AgI)_<0.6>(Ag_2MoO_4)_<0.4>超イオン伝導ガラスの詳細な構造解析を実施した。得られた平均動径分布関数に見られる第1ピークと第2ピークは、結晶Ag_2MoO_4における各種原子対間の距離および液体Ag_2MoO_4の動径分布との対応からそれぞれMo-OとAg-Oペア相関と同定できた。このことはMoの環境動径分布関数にAg-O原子ペア相関がほとんど観測されないことからも支持される。また、Ag-Iのペア相関と予想されるピークもMoの環境動径分布関数には観測されず、期待された通りMo-O原子ペアが分離し観測できた。更に詳細な動径分布関数の定量的解析の結果から以下のことが判明した。(1)Moは0.18nmの原子間距離で約4個の酸素原子に囲まれている。この結果はガラス構造中の基本構造単位はMoO_4四面体が支配的であることを示し、赤外分光実験等による指摘と対応する。(2)Agは距離0.287nmで平均1.9個のIイオンに囲まれており、この配位数は結晶および溶融AgI(配位数4)よりも少ない。しかし、AgIとして添加されたAgイオン1個あたりのIイオンの配位数は約4.4と換算できる。したがってガラス構造中のAgイオンは、結晶あるいは溶融AgIと類似の環境下に置かれており、この種のAgがイオン伝導に寄与するものと理解できる。
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