イオン伝導体中を可動するイオンは1価や2価のイオンであり、3価以上のイオンが伝導するイオン伝導体は未だに得られていない。これは固体中の3価イオンが骨格をなすアニオンとの静電的相互作用が強く、固体中を伝導することが極めて困難であると考えられていたことによる。3価イオンの伝導に関する研究も数例は報告されてはいるが、3価イオン伝導の可能性を示唆しているに過ぎず、イオン伝導度もかなり低い。そこで、3価イオンが伝導する、全く新しい固体電解質の実証を目指し、Sc_2(WO_4)_3型の構造をとるAl_2(WO_4)_3中でのAl^<3+>イオン伝導性について調べた。Al_2(WO_4)_3焼結体の伝導度は同型構造のSc_2(WO_4)_3よりわずかに高い値を示した。イオン輸率を700〜800℃については酸素濃淡電池により、400〜800℃については交流・直流導電率より算出した。その結果、400〜800℃においてはSc_2(WO_4)_3と同様、イオン輸率は0.95以上であり、イオン伝導が支配的であることがわかった。イオン伝導種を調べるために、電気分解を行い電解後の電極-試料界面の分析を行った。電解後アノード界面では析出物は見られずEPMAの結果からもAl/W比は電解前の試料と同じであった。一方、カソード界面では電解後、試料とPt電極の癒着が起こっており、Pt電極表面をSEM観察したところ粒状の析出物が見られた。EPMAにより粒状析出物の元素分析を行ったところ、この析出物はAlのみのピークでありWは全く存在していないことがわかった。このように、電気分解後カソード表面にAl元素が偏在していることから、Al_2(WO_4)_3中でのAl^<3+>イオンの伝導が示唆される。Al含有量の異なるAl-Pt合金を電極としてAl濃淡電池を構成し、起電力測定を行ない、Al^<3+>イオン伝導を直接的、かつ、定量的に示した。
|