1.カルコゲン・マイクロクラスターにおける解離過程 我々は、超音速ジェット法を利用するクラスター作製装置を製作し、電子衝撃法によりイオン化したクラスターについて、飛行時間型質量分析器により質量分析を行った。イオウクラスターでは、クラスター源の温度が200℃のとき、S_8^+までのイオンが観測された。電子衝撃エネルギーE_eを変えていくと、イオン化の閾値近傍のエネルギーではS_8^+やS_7^+クラスターが優勢であるが、E_eの増大に伴いS_6^+やS_5^+が増大した。更にE_eを増すとS_6^+やS_5^+の強度が減り、より小さいクラスターの出現確率が高くなった。興味深いことには、偶数クラスター(あるいは奇数クラスター)の相対強度の総和は、ほぼ一定であった。 これらの結果から、イオウ・クラスターに電子衝撃を加える時、中性のダイマーが放出されると考えるのが自然である。但し、実験結果を定量的に再現するためには、S_8^+が他のクラスターより安定であることを考慮しなければならないことが分かった。また、セレン・クラスターについても同様の実験を行い、E_eが15eV以下では中性ダイマーの放出を仮定すれば実験結果を再現することができることが分かった。 2.カルコゲン・マイクロクラスターのX線吸収分光 高エネルギー物理学研究所のシンクロトロン放射光を利用して、セレン・クラスタービームのX線吸収分光(XAFS)測定の初めての試みを行った。XAFSは通常、試料中を透過するX線の減衰測定により得られるが、クラスター試料は非常に希薄であるため、我々は電子収量法を採用し、セレンのK吸収端で明瞭なジャンプを観測した。平成9年秋には、西播磨に建設中の大型放射光源の共同利用が開始されるので、今後の発展が期待される。 3.カルコゲン・マイクロクラスターの質量選別光電子分光 光照射-光電子-光イオン三重同時計測による質量選別光電子分光装置を開発した。このための自励式ナノ秒パルス光源を新たに開発し、予備的な実験としてトリエチルアミンの光電子分光を行った。
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