アルカンの接触的部分酸素酸化を選択的に行うためには、酸素分子の活性化が高度に制御されている必要がある。この制御を行う上で触媒は適切な電子状態、あるいは酸化状態になくてはならず、金属酸化物触媒の場合は極めて高い還元状態にあることが必要と考えられる。本研究では、ピリジン処理によってもたらされた高還元状態安定型構造のヘテロポリモリブデン酸触媒について、構造と還元状態安定化の機構や、より触媒反応条件下に近い状態での還元構造体形成の実体を明らかにすると共に、このものの新触媒機能によりアルカンの部分酸化を遂行し、またその部分酸化の反応機構を提案した。 還元状態の触媒のFI-IR測定でMo-O-Mo結合のバンドが減少し、Mo=Oバンドが複雑に現れたことから、Mo-O-Mo部位で酸素欠損が生じ、新たな環境のMo=O結合が生じていることが分かった。さらに、^<31>PMAS-NMRスペクトルで著しい異方性が観測されたことから、酸素欠損はケギンユニットを構成している12個のオクタヘドラルMoのうち3個程度の集合部位に集中的に起こったと予想される。これより配位不飽和な還元Moと特異なMo=Oを有するMoポリヘドラからなる特殊反応場が構築された結論した。 プロパン酸化によるアクリル酸生成に活性な触媒ほど高還元状態であること、触媒のプロトン酸性質を低下させると反応が停止すること、気相酸素がないと反応しないこと、イソブタンがプロパンより反応速度が高いこと、オレフィンの生成はほとんどないことなどを基に、触媒表面上のプロトンと還元触媒のもつ電子が協働して酸素分子を活性化し、活性酸素を与え、これがプロパンのC-H結合をラジカル解裂、プロピレン様吸着中間種の生成を導く機構を提案した。また、ヘテロポリ酸触媒は格子酸素が抜けて還元状態になると、Moは配位不飽和状態になると共に、格子酸素は塩基性が強くなるのでアリル酸化が進行する上で有利な環境が整う、とした。
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