本研究では、いくつかの固体触媒反応に対して理論的な手法を用いてその触媒作用を解明し、その結果に基づいて触媒設計の指針を理論的研究から与えることを目指した。ここでは、このような目的で行った研究のうち、ホルムアルデヒド合成反応に対する銀の触媒作用に関する研究を報告する。本研究は、これまでに行ってきた銀表面における酸素活性化の研究を基礎としており、また、昨年本重点領域研究で報告したエチレンのエポキシ化反応に対する銀の触媒作用との対比としても興味深いテーマである。 本研究では、ホルムアルデヒド合成反応に対して、反応メカニズムと吸着酸素種の役割を明らかにした。ホルムアルデヒド合成反応は、理論的にも二段階(O-H解離とC-H解離)で進むことが示され、ともに吸着酸素は活性種として働くことがわかった。しかし、C-H解離の際、吸着酸素が存在すると副反応を導く可能性が示された。さらに、吸着酸素は生成物であるホルムアルデヒドを再吸着させ、さらなる分解を引き起こすことが示された。この吸着酸素種の二面性のため、反応プロセスではメタノール過剰つまり酸素不足の条件が用いられている。反応温度が高いのは、酸素不足によりあまり有利でない過程を経る必要があるためである。熱力学的にも有利な酸素過剰で反応させるためには、効果的にホルムアルデヒド生成物を反応場から取り除く必要がある。本研究の結果は、今後の触媒設計へ重要な指針を与えるものであろう。
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