研究概要 |
近年、人工知能の分野では、動的に変動する環境の中でもロバストかつ柔軟に作動する行動に基づくアプローチ(行動型人工知能)が注目を集めている。しかしながら、適切な行動出力を得るためにはどのような要素行動を用意し,そして要素行動間の行動調停をいかに行うかが大きな問題となっている。 一方、生体内の情報処理機構の一つである免疫系は、各種リンパ球細胞が相互にコミュニケーションをとることにより、高度な情報処理機能をシステムレベルで実現していることが明らかになってきた。この機能は、脳神経系とは異なる新しい並列分散処理アルゴリズムを提供するものと期待される。 上記の考察に基づき、申請者らは免疫系の工学モデルの構築ならびにその人工知能分野への応用に関する研究を進めている。平成7年度からの研究では、自律移動ロボットの動的行動選択問題への適用を念頭に置き、センサが検知する内外環境に関する情報を抗原に、またロボットの取り得る各種要素行動を抗体と捉え、抗体を他の抗体に対して自律性・従属性を主張する相反する二つの部位で表現しネットワークを構成することにより、状況(抗原)に応じた適切な行動(抗体)が選択可能であることを示した。本手法は、最終的なコンセンサス決定がネットワークダイナミクスを通して並列分散的・ボトムアップ的に行われるため、広範な応用範囲を持つものと期待できる。しかしながら,各種抗体は設計者がトップダウン的に用意していたため、複雑な免疫ネットワークの構成は困難であるという問題を有していた. そこで平成8年度の研究においては,環境との相互作用により得られる強化信号に基づき,適切な行動調停を可能とする免疫ネットワークの自律的構築手法の検討を行った.シミュレーションの結果,良好な学習能力を有していることが確認できた.今後の課題としては,メタダイナミクス機能の工学的実現等が挙げられる.
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