「メタダイナミクス」の一例として、昨年度から提案している「絶滅ダイナミクス」の性質をより詳しく調べた。絶滅ダイナミクスは、進化ダイナミクスとして最も一般的な形式であるレプリケーター方程式系に、一般的でしかも不可避であると思われる2つの仮説を取り入れたものである。一つは、自己増殖する実体が大規模で複雑なネットワークを構成している場合、それらの関係はランダムであると見なしうるという仮説である。このような状況は、例えば、地殻変動による大規模な生態系融合などによっても起こり得る。また、古生物学者が大絶滅の要因として注目している「種面積効果」も、ランダム相互作用を持つ大規模な生態系形成を促すと考えられる。二つ目の仮説は、各レプリケーターには自己増殖可能な個体数の最小単位(絶滅閾値)があるというものである。これはレプリケーター方程式系に「有限個体数効果」を取り入れたことに対応する。このため、「絶滅」の定義が比較的曖昧であった大自由度レプリケーター方程式系に絶滅が導入され、系の多様度(自由度)が時間変動することになる。 これにより、絶滅ダイナミクスは、従来の有限個体数効果のないreplicator方程式系とは全く異なるいくつかの特徴的な振舞いを示す。絶滅ダイナミクスは、自由度の変動する力学系の最も単純なプロトタイプになっていると考えられる。これにより、(1)多様度の時間変動、(2)アトラクターの性質(3)平均適応度や相互作用の分布の時間変動についての新しい知見が得られた。
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