領域密度汎関数理論によれば、平衡状態においても、化学結合を構成している部分系の電子化学ポテンシャルは互いに等しくはならず、全系の電子化学ポテンシャルとも異なり、そのことが原子核を動かす化学反応のドライヴィングフォースとして働くことが予言される。このことを、いくつかのイオン-原子系において実証した。本理論によれば、特定の軌道の組み合わせで議論される小さな原子分子の結合性・反応性から、統計的要素や原子核運動にダイナミクスも加わる原子スケール界面の新電子移動量子現象に到るまで統一的に、しかも全く新しい視点から研究できる地平が開かれる。 一方、21世紀に本格化すると予想される高度情報化社会では、画像情報を含む各種の大量の情報を高速で処理することがこれまで以上に重要となることが予想される。これに呼応して、半導体・新機能性デバイスの微細化・高速化・高機能化が急速に進展し、金属・半導体・絶縁体が相互に接する界面構造を原子スケールで制御する技術の確立が求められている。上述の領域密度汎関数理論は、このような界面の原子スケール制御から、新しい界面量子機能の予言にいたるまでの基礎理論として位置づけられ、またその応用がインターディシプリナリーな具体的技術としても確立されることが期待される。具体的には、種々のCVDプロセスの気相ならびに表面化学反応機構の解明を目指し、(1)p型ド-ピングを施したSi表面、Hで終端されたSi表面、Fで終端されたSi表面およびSiO_2表面上のSiH_4、Si_2H_6ガスの熱分解、(2)Alの選択的CVD、および(3)極薄SiO_2膜形成過程に関する量子化学的研究を行い、領域密度汎関数理論に基づく電子移動の解析を始めた。 以上を要するに、平成8年度においては、新たな機能を有する材料設計のための界面量子化学とでも呼称すべき新しい学問の礎を築き、触媒反応設計、凝縮系反応設計、固体表面界面反応設計・物性制御に向けての理論的指針を具体的に与えることを目標とした研究の重要なワンステップを上ることが出来た。
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