研究概要 |
本研究では,化学反応における原子のトンネル効果の影響を解明すべく,(1)低温固相での分子間水素原子トンネル移行反応における反応制御因子を明らかにするとともに,(2)対象を2原子移動を伴うカルベンの低温化学反応に拡張することにより,原子トンネル反応に対する電子スピン状態の影響などを知る.また(3)星間塵を模した極低温系での分子生成反応を解明することにより,宇宙空間での生命の″たね″分子生成過程における原子トンネル効果の寄与を明らかにするとともに,(4)生命体の特徴である対掌性選択的な化学反応における原子トンネルの影響を明らにする.以上の4課題の研究により,単純な分子から生命体に渡る有機反応における原子トンネルの効果を明らかにする.以下に平成8年度の研究成果を述べる。 (1)低温有機マトリックス中で原子トンネル機構で進行するC-H結合からの水素原子脱離やC=C2重結合への水素原子付加反応で生じるアルキルラジカルの同定を行うべく,ENDOR付きのESRスペクトロメーターを購入し,装置の整備をおこなった。(2)一重項および三重項中性二価活性動(カルベン、ニトレン)へのトンネル水素原子移行の選択性を,生成物分析によって明らかにすべく,高分解能質量分析計を購入し,装置の整備をおこなった。また,一重項ではプロトントンネルが,三重項では水素原子トンネルが生じ易いことを明らかにした。(3)星間塵を反応場とする生命の材料分子の生成過程でのトンネル反応の寄与を明らかにすべく,極低温真空反応装置および生成物その場分析のための赤外分光光度計を購入し,装置の整備をおこなった。(4)高い水素分子活性化能力を有する錯体触媒である2, 2'-ビス(ジオフェニルホスフィノ)-1, 1'-ビナフチル(BINAP)の引き起こす水素移動反応におけるトンネル効果を,反応に対する重水素化の影響から明らかにすべく,重水素分析装置を購入し,装置の整備をおこなった。
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