研究概要 |
多自由度系のトンネル現象には,結晶中の転位の運動や固体Heの結晶成長のように,粒子的描象よりも線状構造の運動過程として捉えられる現象がある.そのような系の量子トンネル運動を調べることが,この研究の目的である.初年度に当たるH8年度には,主要設備の導入とその立上げが行われた.転位のトンネル運動を研究するグループ(鈴木,竹内,小泉)では,^3Heを用いて1K以下で固体の塑性変形実験を行うための極低温変形装置を設計・製作した.この装置は,0.5K以下の温度で定速度の引張りないし圧縮変形を数時間に亘って行い,降伏応力の温度依存性や歪速度依存性を測定することができる.この装置を用いて実験を行う金属およびイオン結晶の試料を作成するため超高真空炉、小型真空アーク溶解炉および高速加熱冷却熱処理装置を導入した.これらと平行して,有限温度において転位がフォノンの助けを借りてトンネル運動する確率の理論的研究も行った.Heの表面ステップを研究するグループ(水崎,上羽)では,磁気映像法による表面ステップの可視化の技術を100μk以下の温度域まで拡大するために稀釈冷凍機(断熱消磁マグネット付)を導入した.これにより,従来の核断熱消磁用マグネットによって生じた磁場の乱れに妨げられることなく,精密な磁気映像が撮れることになった.また,平行して,固体Heと超流動Heの界面の不安定化に関する理論的研究も行い,不安定化が1次相転移の場合にはトンネリングが問題となることを示した.
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