研究概要 |
深井は金属-水素合金中での空孔-水素クラスターの多量生成現象に関して,引き続きその生成条件と生成量,生成過程を理解することに努め,漸く満足すべき理解に到達することができた.この結果に基づいて金属中で空孔にトラップされた水素原子の量子拡散を調べるのに最適の試料としてニオブ-水素合金を選定して空孔-水素クラスターの生成条件を詳しく調べ,並行して低温領域での水素原子のジャンプ挙動のNMRによる研究に着手した. 現在のところ,約20K以上でmotional narrowingを起こすほど速い運動をしているプロトンの存在が見出されており,20K以下でのline broadeningからみかけの活性化エネルギー〜1mevが得られている.この信号をもたらしているプロトンの存在状態は今のところ未確定であるが,空孔にトラップされたものであろうと推測されている. 門野は,本研究費で導入した希釈冷凍機を用いて塩化カリウム結晶中のミュオニウム原子の量子拡散に関する実験を進めた.特に試料温度を確実に10mK程度まで下げることに力を注ぎ,そのための試料成型法と温度測定法を確立した.この方法によって実験を行った結果,結晶中でミュオニウムが波動状態すなわちブロッホ状態になっていることを示す証拠を得ることができた.これは結晶中で原子が物質波状態になっていることを見出した最初の実験である.
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