研究概要 |
低温固相中に捕捉されたアルキルラジカルに紫外光を照射すると,2級ラジカルおよび3級ラジカルから熱力学的には不安定な1級ラジカルへの異性化が起こる.この反応の選択性の発現機構を解明するため,重水素化したマトリックス中での光異性化反応,部分重水素化したアルキルラジカルの光異性化反応を電子スピン共鳴法により調べた.アルキルラジカルの光異性化は,重水素化メタノールガラスおよび重水素化ヘキサン結晶中の分子間水素引き抜きにより異性化を起こすことができない条件下でも起こり, アルキルラジカルの分子内水素移動により異性化は起こることがわかった.部分あるいは全重水素化したアルキルラジカル(2-ヘキシル-1,1,1,6,6,6-d_6,3-ヘキシル-1,1,1,6,6,6-d_6,,2-ヘキシル-d_<14>,および3-ヘキシル-d_<14>)については,重水素化していないものに比べ,光異性化の収率が非常に小さく(≪1/15),大きな同位体効果があることがわかった.また、光照射により3-ヘキシルと2-ヘキシルラジカル間の異性化もほとんど起こらず,3-ヘキシルラジカルから1-ヘキシルラジカルへの異性化は,3の位置へ末端の炭素についた水素が移ることにより起こることがわかった.励起状態においても2級アルキルラジカルの方が1級より安定と考えられる.1級ラジカルへの異性化が起こるためには,励起状態から効率良く基底状態の1級ラジカルへ緩和する過程がなければならない.大きな同位体効果は,励起状態において2級から1級ラジカルへの異性化がトンネル反応で進むため,あるいは励起状態から基底状態への緩和速度に対する同位体効果によると考えられる.
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