研究概要 |
量子核形成は、巨視的量子トンネル現象である。すなわち、核の半径という巨視的変数を量子力学的に取り扱い、準安定状態にある系の崩壊現象を議論するものである。量子核形成の概念は、物理学の多くの分野で用いられている。従って、量子核形成を疑いの余地なく実証することは基盤的重要性を持っている。 本研究においては^3He-^4He混合液を舞台とし、^3He希薄相(d相)の^3He過飽和状態を作り出し、そこから^3He濃厚相(c相)の核形成を捉える実験研究を行った。d相の過飽和状態を実現するために、「超流体移送法」と呼ぶ独創的手段を開発・確立した。これにより、400μKという超低温域までの実験が可能となった。この実験手段の大きな特徴は、準安定状態である過飽和状態を殆ど準静的に掃引し得る所にある。この点で、本研究は核形成研究の中で際立った独自の位置を占める。 温度域400μK-500mK、圧力域0-8kg・f/cm^2という広い領域において、臨界過飽和濃度△X_<3,cr>を実験的に決定した。このデータを用いて、臨界過飽和濃度曲面△X_<3,cr>(T,P)の全体像がほぼ明らかとなった。それが示す重要な特徴は、 (i)約10mK以下の温度域では、△X_<3,cr>は殆ど温度に依存せず一定となる、 (ii)約10mK以上の温度域では、△X_<3,cr>は温度と共に増大し続けている、 の2点である。 針の事実は、高木等の理論と半定量的比較の上に立って、我々が量子核形成を捉えた、と云うことを示すものである。第2の事実は、エネルギー散逸の効果を示唆するものである。この点について、Burmistrov等と理論的考察を進めてきたが、未だ実験と定量的比較を行い得る段階には到っていない。核形成実験と並行して行っている、超音波による相分離界面のダイナミックスの実験結果は、未だ予備的段階ではあるが、このエネルギー散逸の存在を支持している。
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