超塑性発現に対して結晶粒の微細化が重要であることが、多くの研究により現象論的に示されている。結晶粒微細化には結晶粒それ自体が小さくなることの二つの意味があるが、超塑性にとってどちらが第一義的要因であるかはまだ確定されていない。本研究では、結晶粒界性格の観点から超塑性現象を検討することを試みた。本研究は(i)結晶粒界構造の記述に関する新手法の提案と(ii)その方法の実験応用から成っている。(i)結晶粒界の性格付けについては、従来、多くの研究が粒界の一部の特徴すなわち結晶粒回転関係のみを考慮するに留まっている。結晶粒回転関係のみでは粒界構造の特徴付けに不十分である。従って本研究では粒界性格付けをより多面的に考察できるように新しい方法を考案し、より詳細な特徴を記述、考察することにした。本研究で実験的に決めるパラメータは5種で、これを利用することにより(1)大角度粒界と小角度粒界の頻度、(2)回転軸方位分布、(4)対称-非対称粒界の割合、(5)シグマ値との対応等が調べられ、明瞭な物理的イメージに沿った評価がより多面的に可能である。基本的に本研究で提案した方法は結晶粒界が関係するすべての現象に適用可能である。(ii)今年度は、実験応用として純銅多結晶性材料のクリープ特性に対する結晶粒および結晶粒界性格との関係をSEN-ECP法により調べた(超塑性は室温におけるある一定応力領域でのクリープ現象とも考えられ、両者の機構には密接な関係があると予想される)。冷間圧延された電気銅の棒材を523Kから773Kの間で一定時間(約10分)焼鈍すると再結晶により結晶粒径と同時に結晶粒界の性格分布が変化することが明らかになった。すなわち、高温で焼鈍するほど回転軸が001軸である粒は少ない、傾角-捻れ粒界分布では傾角粒界に比べ混合粒界が多くなる、対称-非対称粒界については非対称粒界が高い温度まで残る、等の特徴が観察された。従ってクリープ、超塑性試験結果についても結晶粒径依存性と同時に粒界性格依存性の検討が重要であることが分かった。
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