高分子分離膜では、膜厚が大きい場合には透過速度が低下するため、膜厚を極力薄くする必要がある。しかしながら、膜厚が小さくなると逆に機械的強度が低下し、また膜にピンホールが生じやすいという欠点がある。このようなジレンマはまさに傾斜材料(非対称性膜)の創製により解決しうる。すなわち、非対称性構造高分子膜は片面に均一なスキン層を、他面に多孔性のスポンジ層を有する傾斜構造体であり、スキン層での透過分離選択性を保ちつつ、支持体となるスポンジ層での透過性が高いため、高選択性と高透過性および高強度を合わせ持つという利点がある。非対称性高分子膜は主に、非溶媒濃度の上昇により相分離を誘起する非溶媒誘起相分離法(Nonsolvent Induced Phase Separation ; NIPI法)や、均一な溶液を冷却し、2相領域ヘクエンチさせる熱誘起相分離法(Thermally Induced Phase Separation ; TIPS法)を用い、試行錯誤法により作製されてきた。 本研究では、今年度は、NIPI法を対象とし、酢酸セルロース/アセトン/非溶媒系でのdryプロセスによる非対称性多孔構造の形成について検討を行った。三成分系の相平衡に基づく平衡論的な知見と、溶媒の蒸発過程のシミュレーションによる膜内高分子濃度分布の経時変化という動力学的な知見のもとに、得られた膜構造と製膜条件との関係を定量的に議論した。dryプロセスによって得られた非対称構造は、膜の両側での高分子濃度の増加速度の相違に由来することがわかった。従って、この様な解析結果より、膜構造を有効に設計・制御する定量的な指針が得られたと言える。本研究で得られた設計指針は、従来、試行錯誤法に頼っていた膜の作製法を一変させる契機となるものと思われる。
|