親電子反応におけるカルボニル化合物の活性化剤として、ルイス酸がよく使用される。例えば、アリルトリアルキルスズ等の有機金属化合物は、それ自体、アルデヒドやケトン等のカルボニル化合物と反応しないため中性有機金属化合物とみなせ、カルボニル化合物との反応には通常、ルイス酸、ブレンステッド酸や高圧、光などの活性化剤を必要とする。本研究では、ふたつの有機金属分子を望ましい金属間距離に設定し、カルボニル基とのキレート形成による中性有機金属の概念的に新しい活性化法を検討した。すなわち、本来、不活性なアリルスズ化合物をふたつ、ナフタレン環で架橋することにより望ましい金属間距離を有するビス(アリル)スズ化合物を調製した。このものは従来のモノ(アリル)スズ化合物と異なり、各種のカルボニル化合物に対し、カルボニル酸素の二つの孤立電子対への二点配位が可能になるため活性化剤を必要とせず、それ自体、高い反応性を示すことを見い出した。例えば、ビス(アリル)スズ化合物をトルエン中シクロヘキサノンと加熱すると1-アリルシクロヘキサノールが80%で得られるが、相当するモノ(アリル)スズ化合物を同様の条件下で反応させたところ、アリル化体はわずか4%しか得られなかった。同様の傾向は、他のケトンやアルデヒドのアリル化においても見られた。非対称アリル化体としてのビス(プレニル)スズ化合物を用いてアルデヒドと反応させると、γ-付加体のみが生成するため、このアリル化反応は、六員環遷移状態を経由していることがわかる。ビス(アリル)スズ化合物は、また、際立って高い官能基選択性を持ち、例えば、ケトアルデヒドやステロイドのジケトンの官能基選択的アリル化が容易に進行し、その選択性は従来のアリル化法に較べ、非常に優れていることが見い出された。
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