単離が困難と予想され、合成的な利用が行われていない有機2価アリルスズを安定に発生させる手法を開発し、その2価スズの新しい特性にもとづいた合成反応の開発の可能性を見出した。ニトリルを配位子とし、4価有機スズと無機2価スズハライドとの金属交換による2価有機スズの発生手法が可能となった。 等モル量のSnCl_2とアルデヒドとの混合物にプレニルスズを加えると、アセトニトリル溶媒中でのみ、2価有機アリルスズが安定に発生し、アルデヒドの効率的なアリル化反応が進行した。一般の金属剤の反応においてしばしば用いられる、THFやCH_2Cl_2では反応がほとんど進行せず、原料回収に終わった。スペクトルや比較反応等による検討の結果、発生した2価有機スズが、ニトリルの適度な配位を受けていることがこの反応を可能にしていると予測された。 この2価有機アリルスズ種の発生法を利用することにより以下の合成を行った。 1.幅広いアルデヒド、ケトン、イミンなどのアリル化に適用が可能であり、本手法が一般性を有する事が実証された。 2.2価スズは配位受容能は大きいと考えられる。この特性を生かし、アルコキシケトンのアリル化を試み、分子内キレーションを経由する完全な立体制御が可能となった。 3.溶媒により反応の立体化学を自由に制御できることが判明した。さらに、アリルスズの付加位置を検討したところ、ニトリル溶媒ではアリルスズのα位での付加が、アルコール溶媒ではγ付加がそれぞれ選択的に進行することが認められた。この原因を追求することにより、すべての付加はまずγ位でおこっており、従来、一般的に言われてきたα位での直接付加機構は誤りである可能性を指摘した。
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