トシルバリンとBH_3・THFから調製されるキラルボランは高い不斉収率でアルドール反応を進行させる。このとき、求核剤としてのα位にジチオランを持つシリルテケンアセタールを用いると、反応後脱硫操作を経て、ほぼ完全な選択性でアセテートアルドールが得られた。この反応を基盤として、海産性抗腫瘍性マクロリドであるAcutiphycinの全合成研究が展開された。このマクロリドの直鎖構造には22個の炭素原子が含まれ、うち4個所が不斉アルドール反応で不斉導入可能な炭素である。平成8年度の研究として、その約半分に相当するC12〜C22までのセグメントの完全な不斉合成に成功した。その間、反応選択性に関与する反応は4種あり、(1.C17の不斉点は上述のジチオランを含むシリル求核剤を用いて不斉アルドール反応によって導入され>98%eeの選択性であった。2.C14〜C15の二重結合はWittig反応で100%の選択性でその幾何異性体を得た。3.C13の不斉点は、ジメチルを持つシリル求核剤を用いた不斉アルドール反応によって>98%eeのエナンチオ選択性で達成された。4.C12の不斉点はメチルをα位に持つシリル求核剤により、不斉アルドール反応によりトレオ体として不斉合成された。>98%eeの選択性であった。)いずれも高選択的に進行した。
|