1.ごく最近、申請代表者は一般に酵母が糖質を炭素源としていることに着目し独自に開発してきた配糖錯体の中でアミノ糖のD-グルコサミンとエチレンジアミンとのN-グリコシドを配位子として持つNi(II)配糖錯体がHIVウイルス感染者ならびに免疫抑制剤被投与者の重大な死亡要因の一つである病原性酵母Candida albicansの成育を有効に阻止するという重要な現象を見いだした。本研究ではこの発見を手掛かりに、アミノ糖部分に高分子化可能なモノマー官能基を導入し、それらの配糖錯体を秩序正しく高分子化し、新しいタイプの抗菌性ポリマーの開発を目的としている。 2.本年度は、上記のアミノ糖のNi(II)配糖錯体が細胞の代謝系に直接作用していることが示唆されたので、今回細胞壁形成過程におけるキチン分解系に関与する酵素(キチナーゼ)の酵素活性に対する錯体の影響を酵素化学的に詳細に検討した。 3.酵素化学的な検討により、配糖錯体が酵母細胞の細胞壁の形成に重要な役割を担っている酵素のキチナーゼを拮抗阻害することが明らかとなった。代表的なキチナーゼの阻害としてallosamidineおよびその誘導体あるいはstyloguanidineが知られているが、例は少なく本研究の知見は金属錯体を素材とする新しいタイプの薬剤の開発にとって有用な情報とみなされ今後の発展が期待される。現在、配糖錯体の高分子化ならびに生体内で重要な役割を担っている亜鉛(II)を中心金属とするD-グルコサミンの配糖錯体の開発を進めている。
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