研究概要 |
本年度は以下の研究を実施した。1)カチオンあるいはアニオン性脂質単分子膜による水中のアニオンあるいはカチオン認識、2)キラル単分子膜の作製とその分子配列、および3)糖単分子膜による不斉認識。 アルキルアミン単分子膜によるアニオン認識 ジメチルステアリルアミン(Me_2NC_<18>)はpH7〜9の領域で安定な単分子膜を形成するが、そのπ-A曲線は、サブフェーズに存在するハロゲンアニオンの種類に依存して系統的に変化する。F^-、Cl^-、Br^-、I^-の順にプロトン化されたアミンと強いイオン対を作っており、水和エネルギーの小さなF^-のπ-A曲線は、ハロゲンアニオン不在下のそれに近い。これは対象的に、水和エネルギーの大きなI^-の場合には、プロトン化されたアミンとの間に強いイオン対を形成しているため、膜が圧縮されてもHIの放出が起こらない。そのために、膜界面での二次元的な静電反発により、広がった単分子膜を形成するものと思われる。プロトン化アミノ単分子膜によるアニオンの認識が実現できたことになる。次に、アミン単分子膜によるAMP,ADP,ATPの認識について検討した。pH7の水中では、AMPはジアニオン、ADPはジアニオン、ADPはトリアニオン、ATPはテトラアニオンの状態にある。サブフェーズにこれらのアニオンをそれぞれ共存させた場合の、Me_2NC_<18>単分子膜のπ-A曲線を測定すると明らかに、AMP,ADP,ATPの順に膜が膨張した。この現象の機構はまだ解明していないが、膜との結合定数がAMP,ADP,ATPの順に大きくなっているのではないかと考えている。 キラル膜成分の合成とその単分子膜特性 光学活性単分子膜素材である1-[1-(6-ステアリル)ピレニル]エタノール(SP6E)および1-[1-(8-ステアリル)ピレニル]エタノール(SP8E)を合成しその単分子膜特性を検討した。SP6E単分子膜ではラセミ体と光学活性体のπ-A曲線に有意な差がみられ、光学活性体の単分子膜のほうがより蜜にパッキングした単分子膜を形成した。一方、SP8E単分子膜おいてはラセミ体と光学活性体にあまり差がないとう結果が得られた。 糖による不斉認識 1,12-dimethylbenzo[c]phenanthrene-5,8-dicarboxylic acid(1)とシクロデキストリンとの相互作用を^1H NMRから検討した。結合定数を求めると、(M)-1-β-CDxの結合定数は19600±3600M^<-1>で、この値は(P)-1-β-CDxの2200±100M^<-1>よりかなり大きな値である。この不斉認識は1のカルボンキシラートとβ-CDxの水酸基との間の水素結合形成により実現されているものと思われる。この水中での不斉認識を膜界面で検討する予定である。
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