これまで脱窒細菌から精製されたNO還元酵素は極めて不安定であり、さらに酸素還元活性を持たないと報告されていた。しかしながら、最近私達はParacoccus denitrificansATCC35512のNO還元酵素が酸素存在下でも安定であり、酸素還元酵素活性を示すことを見いだしたので、本年度は、その大量精製と遺伝子クローニングおよび全アミノ酸配列について決定した。 (1)大量精製と金属定量 本酵素の大量精製方法について検討したところ、ヒドロキシアパタイトや銅キレートカラムにより、本酵素の精製が可能であることを見いだし、大量の酵素を得ることに成功した。その結果、金属定量や活性部位の構造研究に必要なESR測定が可能となった。得られた酵素の金属定量を行ったところ、本酵素は銅原子を持たず、非ヘム鉄を酵素1分子あたり1〜2分子持つことが明らかとなった。また、シアンによる活性の阻害が、high spin hemeへのシアンの結合によることをESR測定から確認した。 (2)遺伝子クローニングと全アミノ酸配列 本酵素の遺伝子をクローニングし、全アミノ酸配列を推定した。その結果、本酵素のヘムb結合サブユニットにはヘム・銅オキシダーゼのサブユニットIにおいて普遍的に保存されている6個のヘム・銅配位ヒスチジン残基が完全に保存されていた。この結果は、NO還元酵素のNO還元部位もヘム・銅オキシダーゼと同様に複核中心を形成していることを示唆する。しかしながら、本酵素は銅原子を持たず、非ヘム鉄を持つ。従って、複核中心はヘムb-Feである可能性が示唆されるが、これまで非ヘム鉄蛋白質の単核及び複核サイトへの配位が総てヒスチジンである例はなく、本酵素の活性部位の分子構造に興味が持たれる。
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