アドレノドキシン(Ad)は活性中心に[2Fe-2S]クラスターを持つ水溶性の電子伝達タンパク質であり、ミトコンドリア型P450電子伝達系においてNADPH-アドレノドキシン還元酵素(AdR)とシトクロムP450SCC及びP45011βの間の電子伝達体として機能している。 アドレノドキシンHis56の部位指定変異タンパク質であるH56R、H56Aはアドレノドキシン還元酵素との電子伝達活性の指標となるシトクロムcの還元反応においてWTに比べKm値が増加し、P450SCCとのKs値も上昇した。またHis56変異体の1H-NMR芳香族領域のシグナルではWTに比べH56RでTyr82、H56AでPhe59のケミカルシフトに変化が観察された。Ser88の変異体であるS88A、S88TもHis56変異体と同様に電子伝達活性が低下した。さらに1H-NMRの芳香族領域のシグナルはWTとS88AでHis56のC2-Hのみで違いが見られ、S88Aでは低磁場側に0.17ppmシフトしていた。このHis-56のC2-HのNMRシグナルはWTではpH5.8〜8.5の間でpH変化を示さず、ヒスチジン残基としては異常に低いpK値を持っているが、S88Aではシフトが観察されpHに依存するようになった。WTにおいてHis56のC2-HとSer88のCβ-Hは数オングストローム内に近接しており、さらにWTではpH依存性を示さないHis56のC2-HがS88AではpHに依存するようになったことから、Ser88の水酸基とHis56のイミダゾール基での水素結合の可能性が強く示された。S88A、S88Tでは水素結合がなくなり、電子伝達能が低下したと考えられる。Phe43の変異タンパク質の発現量はSDS電気泳動の結果からは、すべての変異体でWTと同程度であったが、菌体粉砕後の吸収スペクトルはF43A、F43SでWTに似た吸収スペクトルが得られづ、電子伝達活性も認められなかった。このことは鉄イオウクラスターがF43A、F43Sでは配位していないことを示している。F43Y、F43W、F43I、F43Lの電子伝達活性は、WTとほぼ同様であった。側鎖の小さいAlaやSerに置換すると活性型のアドレノドキシンの発現が著しく減少することから、Phe43の機能は鉄イオウクラスターの安定化であることが示された。
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