一酸化窒素合成酵素(NOS)の3つのアイソザイムにおいて、それらの酵素活性の調節において重要な役割を果しているカルモジュリンとの相互作用の様式は、アイソザイムにより大きく異なっている.我々はカルシウムに感受性を示さないマクロファージ型NOS、及びカルシウムに感受性を示す内皮細胞型のNOSそれぞれのカルモジュリン結合部位に相当するペプチドを合成し、それらとカルモジュリンとの結合を円偏光二色性、核磁気共鳴、蛍光、滴定型カロリメトリーなどの生物物理学的手段を用いて解析した.その結果、マクロファージ型NOSのカルモジュリン結合部位はカルシウム存在下では数nMという高い親和性でカルモジュリンと結合すること、カルシウム非存在下においても数十nMというやはり高い親和性でカルモジュリンと結合するとこが明らかとなった.一方内皮細胞型NOS由来のペプチドは、カルシウム存在下のみにカルモジュリンと親和性を持ち、通常のカルモジュリン結合タンパク質の性質を示した.また立体構造の解析により、これらのペプチドは水溶液中では完全なαヘリックス構造ではないが、nascent(未熟な)αヘリックス構造とも言うべき構造を取り、カルモジュリンとの結合によってαヘリックス構造が安定化されることが見出された.マクロファージ型NOS由来のペプチドはカルシウムのあるなしに関わらずカルモジュリンとαヘリックス構造を取り結合し、多くのカルモジュリン結合タンパク質の中でユニークな存在であるとが明らかとなった.
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