脊椎動物の初期発生過程において、すべての中枢神経の前駆体である神経管は、体の正中線に沿ってその発生を進める。その際、神経管の背側、腹側はそれぞれ表皮と脊索に隣接し、これらの隣接組織が神経管のその後の形態形成を支配していることが、報告者を始め様々な研究室から報告されている。報告者はこれまでに、特に神経管背側領域と表皮との組織間相互作用について研究を進めてきた。本研究においては、これらの相互作用について、特にそのシグナル分子の探索に焦点を当てて研究を進展させ以下の成果を得た。 1:TGFβファミリーに属するBone morphogenetic protein 4(BMP-4)遺伝子が、神経管背側部に特異的に発現していることがわかった。 2:神経管から表皮に対する相互作用を、BMP-4により置き換えることができた。 これまでの研究から、神経管を異所的に移植すると、移植部にMsx2遺伝子の発現が誘導されることがわかっている。そこでBMP-4を発現しているCOS細胞塊を、神経管移植の時と同様にトリ胚内に移植したところ、Msx2遺伝子の発現が誘導された。これらのことから、正常発生過程において、神経管背側部から分泌されたBMP-4が隣接する表皮に働きかけ、その後の正中線構造が構築される可能性が高いことがわかった。 3:上記のように、体の中軸構造を構成する組織間にBMP-4が作用していることに加え、さらにBMP-4は体の最も腹側組織の形成に重要な役割を担っていることが明らかになった。このことは、もともとBMP-4を発現しない体節中胚葉(背側)内にBMP-4を異所的に発現させると、体節はその後、腹側中胚葉として発生したことから示された。加えて、この背-腹転換は、BMP-4の濃度に依存することがわかった。 これらのことからBMP-4は、体の最も背側に位置する背側正中線、及び最も腹側に位置する組織の形態形成を支配していることが明らかになった。今後はこれらの一見対極に位置する組織の形態形成のしくみの類似性について分子レベルで解析を進める予定である。
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