神経堤細胞に由来する色素細胞は、分化・増殖しながら移動し、マウスでは最終的に真皮や毛皮に定着する。由来が明らかで様々な突然変異体が記載されているこの細胞では、それぞれの現象を支配している分子にたどり着ける可能性が高く、より複雑な組織・器官形成のモデルにもなり得ると考えられる。本研究ではSteel因子が色素細胞でいつ、どこで必要とされるかの詳細な解析を完成させ、皮膚を移動していくという色素細胞の際だった性質にSteel因子が必要かどうかを明らかにすることをめざし、以下のことを明らかにした。 1)色素細胞の分化には複数のc-Kit依存性およびc-Kit非依存性のステージがあり、色素細胞の移動に伴ってc-Kit依存性およびc-Kit非依存性のステージが交互に現れる。 2)Steel因子をサイトケラチン14遺伝子のプロモーターを用いて皮膚に強制発現させたトランスジェニックマウスを作成した。胎仔の一時期に限られているSteel因子を継続して発現させることにより、実際新生仔の表皮において色素細胞前駆細胞の顕著な増加が認められるとともに、マウスの発育に伴って本来色素細胞が存在しない四肢の掌や歯茎に色素細胞が認められるようになった。生後間もないトランスジェニックマウスの掌や歯茎の表皮には前駆細胞が存在すること、同腹仔の相当部位には前駆細胞は全く存在しないことを考えると、表皮にectopicに発現させたSteel因子が前駆細胞の移動を促進したと結論された。
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