出芽ホヤの無性生殖(出芽)においては、芽体の多くの組織が分化多能性の因鰓腔上皮の分化転換によって生じる。レチノイン酸はこの分化転換を誘導する内在因子である。本研究では 1.レチノイン酸生成酵素の候補であるアルデヒド脱水素酵素(ALDH)のcDNAをRT-PCR法により単離した。ALDHファミリーに属する多数の遺伝子のcDNAが単離されたが、このうち2種類の遺伝子のmRNAが芽体において時期特異的な発現をしており、これらの遺伝子の産物が芽体の発生に関与することが示唆された。 2.レチノイン酸レセプター(RARとRXR)のcDNAを単離した。無脊椎動物からのRARの単離はこれが最初なので、ライブラリーから単離したRARcDNAの予想アミノ酸配列と他の核内レセプターの配列を比較して分子系統樹を作成した。ホヤRARは脊椎動物のRARとクラスターを作ったが、脊椎動物のα、β、γのどのサブタイプともクラスターを作らなかった。このことから、RARのサブタイプは脊椎動物とホヤの分岐の後で起こったことが示唆された。ホヤRARのmRNAは芽体において発現すること、またレチノイン酸によって誘導されることがわかった。 3.ディファレンシャルディスプレイ法により、レチノイン酸によって発現が誘導される遺伝子のcDNAを単離した。得られたcDNAの一つはトリプシンファミリーに属するセリンプロテアーゼをコードしていた。ホヤの細胞をレチノイン酸で処理するとトリプシンをはじめとする数種類のプロテアーゼが上清中に分泌されること、トリプシンは囲鰓腔上皮の脱分化を誘導することから、このcDNAがコードするタンパク質が、レチノイン酸の下流で芽体の組織分化に直接関与する機能分子である可能性が示唆された。
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