研究概要 |
網膜神経節細胞(RGC)の網膜内における二次元的、位置的(領域的)多様化が視中枢(視蓋)における投射の領域特異性に対応し、また、RGCの質的多様化が投射の層特異性に対応すると考えられている。我々はこの考え方を証明する分子・細胞的基盤を追求する研究を行った。 1)RGCの位置的多様化 我々は神経結合における領域特異性決定の分子機構を明らかにすることを目指して、ニワトリ網膜の前側あるいは後側の領域に特異的に発現する分子の単離を行ってきたが、この条件を満たす転写制御因子としてCBF-1,CBF-2を見い出していた。本研究ではこれらの分子をレトロウィルスベクターを用いて、ニワトリ網膜において異所的に強制発現させ、網膜視蓋投射における位置特異性に対する効果を見た。その結果、それぞれの分子を、本来発現しているのとは反対側の領域に発現させた場合、網膜のそれぞれの領域から伸長した軸索は、視蓋上で本来投射する領域と反対の領域に投射することが明らかになった。この結果は、転写調節因子の網膜における領域特異的な発現が、すなわち、CBF-1が網膜の鼻側領域、CBF-2が網膜の耳側領域の、RGCの視蓋への投射における位置特異性を決定していることを示唆している。 2)RGCの質的多様化 本研究では、RGCのサブセット及び視蓋の一部の層を選択的に染色するモノクローナル抗体の単離と、その抗原分子の同定を目指した研究を行った。得られた抗体の内、TB4は、網膜視蓋投射の過程でRGC軸索の標的である視蓋において選択的にF層を染色した。この抗原は視蓋F層に投射するRGCのサブセットで発現している。いくつかの証拠から、この層特異的染色はRGCから視蓋への本抗原の輸送によるものと結論づけられた。cDNAクローニングによってこの抗原分子を同定したところ、エズリンであることが判明した。エズリンは、細胞表面に存在する免疫グロブリンスーパーファミリー細胞接着分子アクチンを中心とする細胞骨格系を架橋している分子である。エズリンがRGCのサブセットに発現し、その神経終末がシナプス結合する中枢に局在することは、神経軸索が特異的標的と結合を形成する際に何らかの重要な機能を有することが推定される。
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