(1)絶滅危惧種イリオモテヤマネコおよびツシマヤマネコについて、マイクロサテライトDNAの遺伝子型を決定し、対立遺伝子の頻度から集団の遺伝子多様度(ヘテロ接合度)を算出した。その結果、調べた9種類のマイクロサテライトについて、イリオモテヤマネコ集団およびツシマヤマネコ集団では対立遺伝子の種類と頻度が小さく、特にイリオモテヤマネコ集団ではヘテロ接合度が0であった。それに対し、両ヤマネコと遺伝的に近縁な大陸産ベンガルヤマネコ集団内では遺伝的多様性が大きかった。日本の両ヤマネコ集団における遺伝的多様性の低下は、彼らが島に隔離された後の近交化と遺伝的浮動によるものと考えられるため、今後の環境変化(自然的、人為的)に対する適応力の低下が懸念される。よって本研究の結果は、今後も両ヤマネコ集団の多様性評価を継続すると共に、現在の島の自然環境を保全していく重要性を示唆している。(2)北海道において急増しているエゾシカ集団については、ミトコンドリアDNA D-loop領域の地域変異を検出した。さらに、マイクロサテライト分析により集団内の遺伝子多様度を評価した。マイクロサテライト分析の結果、本州ジカ集団に比べてエゾジカ集団の遺伝的多様性が低いことが明らかとなった。さらに6つのD-loopタイプを検出した。その中で、3つのタイプの頻度が高く、各々のタイプの分布は北海道における主な針葉樹林帯の分布とほぼ一致した。エゾジカは明治時代の大雪により絶滅寸前まで個体数が減少し、その後の保護対策により個体数が回復したことが報告されている。これと本研究結果を統合すると、少なくとも1度は激減した個体群が、冬期の避難所である針葉樹林帯に沿って個体数を回復しながら分布域を拡大し、保護対策(狩猟圧の低下)によって現在の個体数にまで激増したことが示唆された。
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