研究概要 |
抗精神病薬ハロペリドール(HP)の長期投与時にみられる遅延性ジスキネージアやパーキンソニズムなどの神経毒性発現の一因として、HPに由来するカチオン性代謝物(HPP^+)による脳神経細胞死が考えられる。我々はこれまで、1)HPは生体内でチトクロームCYP3AによりHPP^+に変換されること、2)HPP^+は、MPP^+に比べ有意に高いミトコンドリア内電子伝達系阻害を示すこと、3)Brain Microdialysis法を用いた実験により、HPP^+はMPP^+と同様、ドーパミン神経系に対し毒性を有することを報告してきた。本研究はHPP^+による脳神経細胞機構をさらに解明する目的で、脳組織におけるドーパミン生合成およびセロトニン生合成に対するHPP^+の影響について検討した。1)ドーパミン生合成系に対する阻害効果:Brain Microdialysis法を用いてHPP^+溶液を一定時間灌流後の灌流液注のドーパミン(DA)代謝物であるDOPA濃度を測定した結果、MPP^+に比べDOPA濃度の減少の割合は低いが、HPP^+はDOPA濃度を有意に減少させた。この結果は、HPP^+がドーパミン生合成の律速酵素であるチロシン水酸化酵素の阻害剤であることを示唆している。2)セロトニン生合成系に対する阻害効果:ラット脳ホモジネートノ22,000g遠心上清を酵素液として用い、NSD-1015(芳香族アミノ酸脱炭酸酵素に対する阻害剤)を含む緩衝液中でトリプトプトファン水酸化活性(TPH)を測定した結果、MPP^+によるTPH活性の阻害はほとんど見られなかったが一方、HPP^+により弱い活性阻害が認められた。このことは、HPP^+がセロトニン生合成における律速酵素であるトリプトファン水酸化酵素の阻害剤である事を示唆している。以上の実験結果より、HPP^+はMPP^+と少し異なり、ドーパミン神経系およびセロトニン神経系の両方に対し毒性を有することが推察された。
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