生物にとり次世代を残すということは、基本的に重要な営みであり、このため動物は多種多様な繁殖行動を進化させている。われわれヒトを含む霊長類の中では、ヒトに最も近いヒト上科霊長類の多様な繁殖構造が特徴的である。これらの霊長類では、対体重あたりの睾丸重量や造精能力に大きな差違がある。さてこれらのオスの形質のすべてがY染色体に依存するとはいわないまでも、そのトリガーとなっていることは確かであろう。ヒト上科霊長類からヒトへの進化をY染色体DNAから明らかにすることを目的とした。 現在までY染色体上の各部位について、ヒトの配列によるPCRプライマーを合成し、ヒト上科霊長類で増幅の有無からその進化を探ったところ、ヒトからニホンザルまで増幅されるよく保存された領域や、ヒトのみが増幅される領域とさまざまであり、Y染色体上のそれぞれの領域が様々な速度で進化していることが推測された。ついでヒト上科霊長類で、TSPY(精巣特異タンパク質)遺伝子について塩基配列を決定比較したところ、予想されたことではあったが人に最も近いのがチンパンジー、、ついでゴリラ、オランウータンの順となる様な系統樹が描けた。ついでこの遺伝子について、FISH法により分析したところ、テナガザルのごく近縁種間で重複状態に大きな差違があることがわかった。今年度はニホンザル精巣からmRNAを調整cDNAとした後、TSPYのmRNA部分をPCR増幅し、クローニングを行いその全塩基配列を決定した。cDNAは976塩基対、246アミノ酸をコードする741塩基対からなる翻訳領域を持つ。このタンパク質中には27残基中11の塩基アミノ酸を持つ領域があり、ヒトの配列との比較その他からこのタンパク質は転写の制御に関わるDNA結合タンパク質であるとの仮説を提起した。
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