研究概要 |
本研究では、プラナリアとナメクジウオを用いて脳の進化を形態的および分子進化的に考察することを目的として行った。本年度の成果は、プラナリアの集中神経系の構造が、脊椎動物の神経板期胚に出現する一次神経系の構造に酷似していることを分子マーカーを用いて明らかにするとともに、さらに、それらが形態的に酷似しているだけではなく、遺伝子プログラム的にも相同といって良いことを明らかにした。具体的には、プラナリアより、Otx-A, Ota-B, Otpといった脊椎動物の中枢神経系の形成に関連することが知られている遺伝子をクローン化することに成功し、その全長構造を明らかにし、プラナリアにおいてそれらの脳形成関連遺伝子がすでに存在していることを示した。さらに、それらの遺伝子の発現パターンをwhole mount in situ hybridizationによって解析し、それらの遺伝子がプラナリアの脳で発現し、かつ、その3種の遺伝子が脳内の部域に応じた発現の住みわけがおきていることを明らかにした。これらの事実は、これらの遺伝子が、プラナリアに存在するだけでなく、すでに脳のパターン形成に関与していることを示していると考えられる。また、一連のこれらの研究は、複雑な脊椎動物の脳を分子レベルで理解するにあたり、プラナリアを基本に脳の形成の基本プログラムを理解し、その上に、脊椎動物の脳を進化させるためにリクルートされた遺伝子を明らかにするという新しい脳研究の道を開いたと考えられる。 さらに、本研究では、プラナリアの進化的な位置を明らかにするために、プラナリアよりEF-1およびEF-2遺伝子をクローン化し全長構造の決定を行い、分子系統樹の作成した。その結果、両遺伝子とも、プラナリアが先口動物と後口動物が分岐する以前に位置することが確かめられ、プラナリアを基本に脊椎動物の脳の進化を論じても、何ら的はずれでないことも確かめた。
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